東京大学 東洋文化研究所 佐藤仁研究室

SATO Jin Lab.

Institute for Advanced Studies on Asia, University of Tokyo

争わない社会「開かれた依存関係」をつくる

NHK出版

佐藤仁[著]

刊行年月 2023.5.25
ページ数 320ページ
ISBN 978-4-14-091279-9

書評&紹介

2023年11月1日付 国際開発研究』  下村恭民氏(法政大学教授)
2023年7月30日付 新潟日報』 橋本努氏(北海道大学教授)
2023年8月1日付    島根日日新聞』 雑賀恵子氏(社会学者)  
2023年8月1日付    長野日報』 雑賀恵子氏(社会学者)  
2023年8月15日付 日刊ゲンダイ
  ほか多数

争わない社会

「開かれた依存関係」をつくる

科学技術がどれだけ進歩して、人類の知の総量がどれだけ増しても、人間同士の争いはなくならないようです。かつての争いは貧しさの中で生じていました。いまは、豊かな者同士も争う世界になっています。いったん争いが大きくなると、それを止める知恵を私たちは持ち合わせていません。人間社会から争いを根絶することはできないとしても、その暴力的なエスカレートを予防する工夫はないものでしょうか。 


本書は、「自立」や「競争」を強調する近代化の過程ですっかり弱体化した「中間集団」を育むことが争いの予防に役立つという仮説を提示します。中間集団は、国家の「出先」になることもありますが、逆に、人々の連帯の結節点として権力に抵抗したり、異議申し立てをしたりする母体にもなります。争いがエスカレートしてしまうのは、このような中間集団が機能せず、権力を支える人々の依存関係が国家と個人に二極化してしまっているからです。国家と個人の間の中間集団の層を厚くし、依存先の選択肢を増やすことによって、支配に抗うことのできるような依存関係を構築できるのではないでしょうか。

従来型の経済発展に対する反省から生まれたSDGsは「誰一人取り残さない」と言いながら、何から取り残さないかについて語っていません。依存先を失った人々は脆弱で、孤立しがちです。いまこそ、困ったときに頼り合うことができる「開かれた依存関係」を作り直すべきと考えます。本書は、近代化の過程で悪者扱いされてきた「依存」の価値を再発見し、争いの根源にある「分ける」発想を乗り越えようとする試みでもあります。

はじめに
序 章 争わないための依存
Ⅰ部 発展の遠心力――「自立した個人」を育てる
第1章 競争原理――規格化される人々
第2章 社会分業――特技を社会に役立たせる
第3章 対外援助――与えて生まれる依存関係
Ⅱ部 支配の求心力――特権はいかに集中するか
第4章 適者生存――格差を正当化する知
第5章 私的所有――自然をめぐる人間同士の争い 
第6章 独裁権力――依存関係を閉じる言葉
Ⅲ部 依存の想像力――頼れる「中間」を取り戻す
第7章 帰属意識――踏みとどまって発言する
第8章 中間集団――身近な依存先を開く
第9章 依存史観――歴史の土を耕す