科学技術がどれだけ進歩して、人類の知の総量がどれだけ増しても、人間同士の争いはなくならないようです。かつての争いは貧しさの中で生じていました。いまは、豊かな者同士も争う世界になっています。いったん争いが大きくなると、それを止める知恵を私たちは持ち合わせていません。人間社会から争いを根絶することはできないとしても、その暴力的なエスカレートを予防する工夫はないものでしょうか。
本書は、「自立」や「競争」を強調する近代化の過程ですっかり弱体化した「中間集団」を育むことが争いの予防に役立つという仮説を提示します。中間集団は、国家の「出先」になることもありますが、逆に、人々の連帯の結節点として権力に抵抗したり、異議申し立てをしたりする母体にもなります。争いがエスカレートしてしまうのは、このような中間集団が機能せず、権力を支える人々の依存関係が国家と個人に二極化してしまっているからです。国家と個人の間の中間集団の層を厚くし、依存先の選択肢を増やすことによって、支配に抗うことのできるような依存関係を構築できるのではないでしょうか。
従来型の経済発展に対する反省から生まれたSDGsは「誰一人取り残さない」と言いながら、何から取り残さないかについて語っていません。依存先を失った人々は脆弱で、孤立しがちです。いまこそ、困ったときに頼り合うことができる「開かれた依存関係」を作り直すべきと考えます。本書は、近代化の過程で悪者扱いされてきた「依存」の価値を再発見し、争いの根源にある「分ける」発想を乗り越えようとする試みでもあります。