本書は、天然資源がいかなる意味で社会科学的なテーマであるかを、日本、中国、カンボジア、タイ、フィリピンといったアジア諸国から、ラテンアメリカやアフリカに至るまでの地域の現地調査をベースに解き明かしたものである。資源は原料ではない。資源を石炭や石油と同じ原料とみなすところから、バランスの偏った自然の資源化が加速した。この加速が、いわゆる環境問題の多くを引き起こした。環境問題の根底には、われわれが資源をどう捉えるか、という問題が横たわっている。
人口増加の問題とセットで語られることの多かった資源問題は、もっぱら過剰利用の抑制に注目が集められてきた。しかし、昨今の日本の現状は、むしろ過少利用である。森林や農地は働きかける人々を失い、次々と放棄されている。資源を介した自然と社会の関係は、このように地域の文脈に応じて異なる形で立ち現れる。こうした問題を、従来のように森林やエネルギーといったセクターごとの縦割り的な発想、あるいは地域の文脈を捨象した視角で分析していたのでは、全体像がつかめない。資源は、初めからそこにあるものではなく、人の働きかけによって「なる」ものである。日本の重要資源とみなされた石炭が放棄されたり、風や太陽が新たな資源とみられるようになるのは、その証拠である。
資源問題の再定義に、地域研究的な接近方法がどのように貢献できるのか。資源社会科学分野の権威であるイリノイ大学の Jesse Ribot 教授の序文も合わせて、本書の挑戦をぜひ読者のみなさんにご批判いただければと思う。
2013年7月24日
佐藤仁(編者)